「だいたいこんな感じで」から始まる仕様の聞き取り。概算を出せば「やっぱりサイズを変えたい」。再計算のあとに「色違いだといくら?」。往復のたびに、また計算です。
製造業の見積業務では、この光景が毎日繰り返されています。この記事は、見積往復に疲れている経営者・営業責任者に向けて書きました。まず見積業務の正体を定義し、次に損失量を測る計算式を示します。そのうえで、見積工数の削減につながる3つの出口を解説します。
見積もりは、何往復もして完成します。
見積業務は、お客様との何往復ものやり取りを必要とします。
依頼の多くは、仕様が固まらないまま届きます。担当者が聞き取りで仕様を埋め、価格表と経験をもとに計算します。概算を出すと変更が入り、また最初から計算し直します。1件の見積もりに数時間、複雑な案件では数日かかることも珍しくありません。
工数は計算だけではありません。聞き取りの日程調整、見積書の清書と送付、返事がないときの追いかけ連絡。1件の裏側には、こうした事務作業もぶら下がっています。
しかもこの工数は、見積書のどこにも計上されません。お客様に請求できない時間として、社内に静かに積み上がっていきます。
往復の先に、受注の保証はありません。
往復を重ねても、その先に受注がある保証はどこにもありません。
相見積もりの当て馬だったのかもしれません。予算感を知りたかっただけかもしれません。検討そのものが立ち消えることもあります。「見積もりに工数がかかっただけ」で終わる案件が、相当数あります。
それでも、見積依頼を断るわけにはいきません。出さなければ、受注の可能性はゼロになるからです。断れないまま出し続けるため、無償労働は止まりません。
受注率が3割なら、見積工数の7割は受注に結びついていません。この事実を数字で直視している会社は、意外なほど少ないのが実情です。
見積もりとは、先払いの無償労働です。
この2つの事実を合わせると、見積業務の正体はこう定義できます。
見積もりとは、成約するかわからない案件のために先払いする無償労働です。
失注した瞬間、その工数は丸ごと損失になります。
外注費であれば、支払う前に金額を確認し、稟議を通します。ところが見積工数は、誰の承認もなく毎日支払われています。人件費の中に溶け込むため、帳簿のどこにも「見積損失」の科目は現れません。見えない損失は後回しにされ、対策の優先順位も上がらないのです。
忙しいほど、利益率は下がります。
さらに、構造的な矛盾があります。引き合いが増えれば、見積往復も増えます。だから、営業が忙しいほど利益率は下がっていきます。
本来、引き合いの増加は喜ぶべき変化です。ところが見積もりが無償労働である限り、繁忙はコスト増として跳ね返ります。多くの中小製造業は、この構造を「そういうものだ」と受け入れてきました。しかしこれは、担当者の努力で解決できる種類の問題ではありません。
仕組みの問題は、仕組みでしか解決できません。
無償労働量を、計算してみてください。
自社の無償労働量は、3つの数字で概算できます。月の見積件数、1件あたりの平均工数、受注率の3つです。
- 月の総見積工数 = 月の見積件数 × 1件あたり平均工数
- 月の無償労働時間 = 月の総見積工数 × (1 − 受注率)
仮に月30件、1件2時間、受注率30%とします。この場合、総見積工数は月60時間です。このうち70%は失注案件の分のため、無償労働は月42時間になります。年間では504時間、1日8時間換算で63営業日に相当します。営業担当者1人の3か月分に近い時間が、受注に至らない案件へ消えています。
人件費に換算すると、より具体的になります。仮に1時間3,000円なら、月12万6,000円、年間151万2,000円です。
なお、この式は控えめに作ってあります。受注した案件の往復や、仕様変更による再見積もりの工数は含めていません。実際の損失は、式の答えより大きいと考えるのが自然です。
この数字はすべて仮定の例です。貴社の実数を入れて、計算し直してみてください。想像より大きな数字が出たなら、それが効率化へ投資する判断の基準になります。
出口は、3つの方向にあります。
構造の問題は、構造で解くしかありません。出口は大きく3つの方向にあります。3つは対立する選択肢ではなく、この順に積み上げていく段階です。
まず、計算ルールを標準化します。
経験と勘に頼った見積もりを、価格表と計算式に置き換えます。サイズ・素材・数量・加工など、価格を決める変数を洗い出します。変数と計算ルールが決まれば、誰が計算しても同じ見積もりになります。
すべての案件を対象にする必要はありません。まず案件の8割を占める定型パターンから着手し、特注は例外として残します。テンプレート化だけでも、1件あたりの工数は目に見えて減ります。ベテランでなくても見積もりを出せるようになり、属人化の解消にもつながります。
次に、受付を自動化します。
標準化した計算式は、そのままシステムに載せられます。貴社サイトに見積フォームを置けば、受付は24時間365日動き続けます。営業時間外に検討しているお客様の引き合いを、翌朝まで待たせずに受け取れます。電話やFAXの内容を転記する作業も、最初からデータで届くため不要になります。届いた内容はリード情報として残るため、その後の営業活動にもそのまま使えます。
仕組みの種類や選び方は「Web見積システムとは」で整理しています。導入費用の相場は「見積もりシミュレーターの制作費用」にまとめました。
最後に、仕様確定をお客様に渡します。
往復の中身を分解すると、その大半は「サイズは? 色は? 数量は?」の確認作業です。この確認を、お客様自身が画面上で選んで確定する体験に置き換えます。曖昧な自由記述が、確定した仕様データに変わります。
当社が実装したキューブサウナの見積画面では、寸法を変えるたびに3Dモデルが組み替わります。見積PDFも、その場で自動生成されます。人が聞き取りで仕様を埋める工程は、この流れに最初からありません。
これはお客様にとっても速い体験です。選んだその場で価格がわかるため、社内検討がすぐに始められます。「問い合わせて数日待つ」よりも、選ばれやすい買い方になります。
聞き返しの必要がなくなり、1往復目が「仕様確定済みの見積もり」から始まります。無償労働だった工数がゼロに近づくため、失注しても損失はほぼ残りません。営業の仕事は「来た見積もりに追われる」から「確度の高い案件を選んで追う」に変わります。印刷業を例にした具体像は「印刷業のWeb見積」で紹介しています。
書くフォームから、触るカタチへ。
お問い合わせフォームと見積フォームは、Webの誕生からずっと同じ姿をしています。名前・会社名・自由記述欄・送信ボタンの構成のまま、30年間取り残されてきました。当社は、次の標準は「書くフォーム」ではなく「触るカタチ」になると考えています。お客様が3Dでカタチを決めた瞬間、仕様と価格が同時に確定する形です。テキストの自由記述では、仕様の情報が欠落します。カタチのまま伝われば、欠落なく伝わります。欠落がなければ聞き返しが消え、聞き返しが消えれば見積もりは即時になります。これは演出の話ではなく、情報伝達の構造問題の解決です。
見積もりを無償労働のままにしておく必要はありません。先月の見積件数と受注件数を、すぐに答えられるでしょうか。答えに詰まるなら、損失がまだ数字になっていない証拠です。数字になった損失は、放置しにくくなります。どの出口から着手すべきかは、その数字が教えてくれます。